ジビエという言葉は日本人にはあまり馴染がないかと思いますが、狩猟による鳥獣肉をジビエといいます。
また英語ではゲームミートともいいます。
古来より狩猟民族であった西洋人の食文化は、ジビエなしには語れないと言っても良いでしょう。
現在でもフランスなどを狩猟時期に訪れると、食肉店の店先やマルシェなどで毛がついたままの狩猟肉を日常茶飯事的に見ることが出来ます。
たとえばこんな光景です。
買い物の際に毛のついたリエーブルを主婦が指をさして肉屋の主人に注文をしています。
「リエーブル(野ウサギ)を煮込み用に半分さばいといてちょうだい。ロースはロティ用にラックでね!
チーズとワインを買ってくるからお願いね!」と、こんな調子です。
こういったやりとりを何百年ものあいだ肉屋とお客でやってきたことには脱帽してしまいます。
こうしてパリの主婦は週末にジビエを仕入れて、日曜のディナーの為の「ごちそう」を仕込みます。
“素材によって、コニャックとスパイスを擦り込みロティ用に1日休ませる。
また煮込み用の鶏肉などは赤ワインとローリエ・ローズマリー・その他の香味野菜などでマリネをしておく。”
一般の家庭にもジビエ料理の伝統は浸透しており、ちょっと料理好きな主婦たちは素材に応じた仕込みを熟知しているのです。
日本の洋食の調理人、そして食材屋の我々からしてみてもこれらの光景は驚異であり、ジビエの
底知れない力を見せつけらてしまいます。
ジビエはあるときには高貴に、あるときには力強く食文化をを語ってくれます。
※ワンポイント・ジビエの素晴らしさ
マルシェでの光景など日本で言えば非日常的な光景を、ヨーロッパでは日常的に見ることが出来ます。
家庭料理にもジビエが普通にとけ込んでいることを物語っています。
そして一般家庭でさえ、ジビエ料理のノウハウをもっていることには驚いてしまいます。
また、庶民レベルでさえ代々肉を食べてきた歴史には、日本人の我々はとうていかないません。
このようなことから考えると、ある一定レベルの人たちを満足しなければならないレストランのレベルとは
どういうものなのでしょうか?家庭料理との明確な差別化が、出来ている証拠です。
もちろんレストランの評価は料理だけではありません。サービス・雰囲気・演出など他にもまだ沢山あります。
また、ミシュランの★でも代表されるように、国を越えて常にレストランに対しての評価の意識を持っています。
真冬のフランスや、ベルギーなどヨーロッパ各国は、知る人ぞ知るジビエ料理天国です。
各国から旅行者がシーズン到来と共に、あこがれのジビエを食べに来ます。
そして、調理人にとってはそれこそ真剣勝負での世界です。
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◇西洋料理とジビエ
西洋料理とジビエは、食文化の両輪ともいえます。
古くから、鳥獣の香りを生かしたり、風味を増すための様々な保存法・調理の技法を発達させ、ジビエの価値・特性を今に伝えてきました。
またこのことが現在の洋食に多大な影響を与えていることは承知の事実です。
ジビエという素材に対してのこだわりは、今後、わが国のフードサービスにおいても重要な要素になってくると思われます。
◇ジビエの現在
本来ジビエとは猟獣、野山で育った野鳥や野生獣ですが、流通面から量が安定しない、棲息数の減少などの理由で一部のジビエは飼育も行われています。
また、途中まで育てて野に放ったり、野生のものを餌付けするといった半野生のジビエもあります。
狩猟品種であれば、ジビエの範疇に入るという考え方です。
価格は、飼育の手間が入るので野生のものより安いとは限りません。いずれにしてもジビエがさらにポピュラーな食材になっているようです。
また一年中食べられるという点でも メリットがあります。
◇国内産のジビエ
狩猟肉は、個体差、雄雌、狩猟の状況、処理、保存によって、素材の価値が変化してしまうものだと
思います。国内産の狩猟肉に関しては、まだまだ課題があります。
◇ハンターの意識
ヨーロッパのハンターは良い肉を得るための“クリーン・キル”を心得ています。
例えば急所に当てて即死させなければ、獲物は逃げ回って肉に血が回り、真っ黒な肉になってしまいます。
腹に弾が当たれば内蔵が破裂して肉に臭いがつくし、背に当たれば背肉が使い物にならなく
なります。
これらの事を考え合わせてヨーロッパのハンターは、良い食肉を得るための独自のハンティングマニュアルを持っているわけです。
日本のハンター向けのマニュアルも、ぜひ必要です。
◇処理(解体)施設
食肉として流通させるには、食肉処理場の許可を持った施設で解体する必要があります。
さらに野生動物専用設備となると、絶対的に不足している現状です。
・・・・・・関連読み物 「ちょっと一息“蝦夷ジカ”」
◇日本で手に入るジビエ
国産のほか、輸入のジビエはほとんどがフランスから輸入されています。
検疫上の問題のため、イギリス・ドイツ・ベルギー・オーストリア・ハンガリーなどのジビエをフランスに集荷し、フランスから日本へ輸出されます。
このため産地の限定が難しい場合もあります。
時期的には9月末から徐々に入ってきます。9月末にはコルベール(真鴨)が入ります。
10月中旬になるとリエーブル(野ウサギ)、ペルドロー(山ウズラ)、フザン(雉)が入ります。
11月に入るとジビエでも珍重されている、ベカス(山シギ)が入り始めます。
また小ぶりの品種、タシギもイギリスから輸入されていますが、ペガス以上に高価なものです。
12月いっぱいで終わるものはペルドローとフザンです。
その他のものは2月の上旬ぐらいで終わります。ジビエのシーズンが幕を閉じます。
ジビエの飼育
本物のジビエとして入手しにくくなったものとして、ペルドローやフザンがあります。
ほとんどのものは飼育後に放鳥をして、野生化したものを出荷しているのが現状です。
これらの鳥は渡りを行わずブッシュのくぼみなどに巣を作ります。餌付けがしやすいのも特徴です。
また真鴨なども大型の囲いの中で放し飼いにされ、主に穀物で育てられています。
半飼育ものと飼育もののジビエの品質は、飼育する土壌が肥えていて、
鳥の餌となるような小さな虫、 幼虫、小動物などが豊富にあることがポイントとなります。
より自然に近い環境で飼育されるため、野生には劣らない高品質な食肉になります。
また検疫上、輸入される大型獣類(鹿・イノシシ)は、飼育されたものに限られています。
・・・・・・下の表をご覧下さい
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日本で手に入るジビエ一覧
鳥類 |
カモ類 |
マガモ
コガモ |
日本・フランス・イギリス・ベルギー産
日本・フランス・イギリス・ベルギー産 |
シギ類 |
ヤマシギ
タシギ |
日本・フランス・イギリス・ベルギー産
日本・イギリス産 |
キジ類 |
キジ
山ウズラ
ライチョウ |
日本・フランス・イギリス・ベルギー産
フランス・イギリス・ベルギー産
日本・イギリス産 |
ハト類 |
モリバト
パロンブ
ヤマバト |
フランス・イギリス・ベルギー産
フランス産
日本産 |
ウサギ類 |
ウサギ類 |
野ウサギ
穴ウサギ |
日本・イギリス・フランス産
フランス産 |
大型獣類 |
鹿 |
ダマジカ
アカシカ
フェロー
蝦夷鹿 |
フランス産
ニュージーランド産
ニュージーランド産
北海道産 |
猪 |
猪
マルカッサン
サングリエ |
日本産
フランス産
カナダ産 |
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